2007年09月09日

ブックレビュー:女流作家3人

ブックレビューです。まずは、姫野カオルコさんの『蕎麦屋の恋』。
表題のほか、2編の短編が入ってます。いいなと思ったのは、3つ目の「魚のスープ」。妻の桜子幸せな結婚生活をしているはずの主人公。でも、何か足りなくて、すこしだけ、影を感じる。その原因は、つまり…。

ぼくと桜子は、カズに言わせれば、別学で自宅住まいで、生活している部分を知らずにつきあっていた。結婚して、生活の部分でたがいを見るってことに慣れてなかった。慣れてないんだもの、そりゃ、疑問符もただようさ。

学生時代の女友達、カズにそうあっさりと言われた主人公は、ようやく、これでいいんだと安心する。妻と一緒に、生きていこうという気持ちになる。

妻と並んで歩くよ。
ならんで歩こう。女性としての妻の話を、これから先、長く続く生活の中でずっと聞こう。ぼくも彼女に語ろう。こどもができたらその子とも。

なんか、いいな。と思った。一緒に、手をつないで、速かったりおそかったりする互いの歩調に合わせながら歩く。そうやって歩いていける人と、一緒になれたらいいな。


次は、野中柊さんの『草原の輝き』。暗い過去にとらわれたくないと思いながらもやっぱりとらわれてしまう自分。ちゃんと向き合って、受け止めてと、突然現れた少女が囁く。少女は言う。

「あたしはね、エゴイズムを極めなくちゃ、本当に優しい人にはなれないんじゃないかって思ってる。だって、自分を大切に出来ない人間が他人を大切にできるはずがないんだから」

ちゃんと過去と向き合う。よかった自分も、悪かった自分も、好きになる。自分を好きになる。難しいけど、それが他人を大切にする第一歩なら、やってみたいと思う。
それに、この小説に出てくる主人公の夫がまた、すごい素敵な人なのよ。心から主人公のことを愛していて、大事にして、前を向いて生きていこうと言ってくれる。その明るさが、前を向く勇気が、輝く姿が、まぶしすぎて怖くてついてけなさそうになって、不安になる主人公。この幸せはいつまでも続いてくれる?この人は、ずっとそばにいてくれる?そんなときの、彼との会話。

「まあちゃん、これから先どんなことがあっても、私の事を信じていてね。わたしは、まあちゃんのことが大好きで、私が最終的に帰ってくるところは、まあちゃんの腕の中しかないと思ってるってこと…お願いだから、忘れないで」
「何で、そんなこと、言うの?」
闇の中で優は不安そうになつきを見つめていた。
「どこか行きたいところがあるの?」
「いいえ」
「でも、行ってしまうつもりなの?」
何とも答えずにいると、優は、何か隠してるだろ?というなり、なつきの頭を抱き寄せた。
「馬鹿だな。何で、そんな悲しそうな顔するんだよ?別にいいよ、隠してることがあっても。でも、俺もこれだけは言っておくよ。なつきがどこかへ行っちゃったら、俺は追いかけるよ。どこまでも追いかけて、捕まえるよ。なつきが帰る場所が俺のところだって思ってくれているのに、どこかへ行かなければならないのだとしたら、そこへ行くのは、おまえにとって、よほど避けられないことなんだろ?だったら、そのときは俺が歩み寄る。これで、どう?」
なつきは笑った。
「じゃあ、まあちゃんは、私の移動するおうちってわけね?」
「そう。追いかけるうち」
「どこまでも?」
「うん。なつきの行くところなら、地の果てまでも」


3つめは、江国香織の『つめたいよるに』。短編集だけど、失うことをここまで美しくしっとりと書ける作家さんはなかなかいないんじゃないかとすら思う。死んだ犬が、1日だけありがとうを言うために人間の男の子の姿で現れた(「デューク」)。幽霊の父親と結ばれた母親の姿をみつめる息子(「草之丞の話」)。生まれる前に亡くなったおばあちゃんが、おじいちゃんのそばにいるために自分の中に仮住まいしていた(「スイート・ラバーズ」)。妻を失った老人の、哀しく美しい、思い出の春の散歩(「晴れた空の下で」)。
故人を慕う。悼む。想う。想い続ける。そのあたたかさ、哀しさを感じられる1冊でした。


うん、なんか、いい本読んだなー。
特に、『草原の輝き』が好きです。あんな旦那様が欲しい(笑)。
posted by かずみ at 21:51| Comment(2) | TrackBack(0) | レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月02日

最近の読書記録

基本的に会社帰りは洋書を読んでいるのですが、最近はとある人の影響もあって日本の小説もよく読んでいます。せっかくなので、記録。

まずは洋書から。
ついこの間読み終えた本。2006年ノーベル文学賞を受賞したOrhan Pamukの"snow"。暗くて陰鬱な感じだけれど、どこか心に共鳴するところがある政治小説。
「幸せになろう」―確かめるように何度も耳元で囁いて、そう願い続けて、なのに結局幸せになれなかった…。そんな、哀しくて深いお話でした。

今読んでいるのは、英会話の先生に借りた"snow crash"。スラングが多くて非常に読みにくいけれど、テンポはいい感じです。まだ読み始めたばかりなので、どんな話か分かんないけど…。

続いて邦書。
お気に入りの作家、本多孝好さんの『FINE DAYS』。短編集で、過去と現在との記憶を行き来する「イエスタデイズ」が、優しくて、哀しくて、心に残りました。
真夜中の5分前-side A-』、『真夜中の五分前-side B-』は、恋人を失った「僕」が主人公なんやけど、その悲しみだとかつらさだとかよりも、「“自分”って何?」というアイデンティティへの疑問のほうが色濃く描かれているように思えて、しっとりと胸に響きました。

ずっと読みたかった、重松清さんの『流星ワゴン』。死んでもいいと思ったそのとき、ふと現れた2人の親子。過去をやり直せたら、どうする?過去に戻って、その瞬間をもう一度体験するなら、どうする?どうすればいい?―切なくて、寂しくて、でも、最後に残ったのは『愛』なのかなって、そんな風に思える小説でした。4時間で一気に読んじゃった。ほんとによかったです。

小川洋子さんの『博士の愛した数式』。映画は見てないけど、静かな、穏やかな小説でした。感動とか、お涙頂戴のお話ではなくて、ただ、ある人間の生き様を言葉でつづったような、そんなお話でした。
偶然の祝福』は、私が小説の世界に求めていたのとはちょっと違って、なんとなくブルーになっただけで終わってしまった…。うーん。


人それぞれ、どんな小説が好きとか嫌いとかってあると思うけれど、私の好きな小説は、「リアルで、でも非現実的で、読むと少しだけ現実逃避ができて、でもちゃんと現実に戻ってこられる」ものなのかなと最近思うようになりました。悩んだり、悲しんだり、恋わずらいや恐れ、憎しみ…そういう生きている人間の感情を、静かに、むしろ淡々と書き綴った小説がいい。ハッピーエンドなら、ほっとする。そうじゃなくてもいい。ただ、「あぁ、私は今、こういう気持ちなんだ」って、ちゃんと自分の気持ちに納得する主人公がいてくれればいい。読んだ後に、なんとなく余韻が残って、自分の気持ちを確かめるように、ふっと物思いにふけることができる小説がいい。本を閉じて、思い起こす人はさまざまで、―家族だったり友達だったり恋人だったり会社の同僚だったり、今日駅ですれ違ったおばさんだったりするけれど、その人の人生を想い、自分の人生を想い、悲しいからじゃなく、不幸だからでもなく、ただ静かに涙を流せる小説がいい。

最近ミステリーとか推理小説とか読まなくなったなぁって思う。嫌いなわけじゃないけど、誰かが死んで、故人ではなく“死に方”にスポットが当てられて、みんな謎解きに躍起になって、でも、ねぇ、その死んじゃった人の人生は、どうだったの?その人が死んで、ねぇ、他の人の心はどう影響を受けたの?そういうことは誰も気にしない、そんなストーリー展開に、ちょっと疲れたのかもしれない。

いや、アタマを使うのが嫌なだけかも…。うーん。


今読んでるのは、姫野カオルコさんの『蕎麦屋の恋』。読み終わった後、私は何を思うのかな。

「続きを読む」をクリックすると、何冊かの詳細情報が見られます。続きを読む
posted by かずみ at 23:58| Comment(2) | TrackBack(0) | レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年08月04日

展示会レビュー:『インカ・マヤ・アステカ展』

日記へのコメントがきっかけとなって久々に会うことになった友達と、上野の科学博物館でやっている『インカ・マヤ・アステカ展』を見に行ってきました☆

私の目的は、もちろんナマでマヤ文字を見ること!!いや、そりゃ古代文明にだって興味はあるけど、それより何よりマヤ文字が見たかってん…。

数々の変てこ(←いい意味でね…)文字を見ては感動しまくっている私ですが、やっぱりマヤ文字素敵です。だって、めっちゃ絵やもん!これを解読した人、目の前に現れたら私の権限で表彰してあげたいくらいです(←何様)。すばらしい!

展覧会は、まだ残期間が長いこともあってかそれほど混雑もしていなくて(人は多かったけど、入るのに並ぶほどじゃなかった)、割とゆっくり見られました。もちろんマヤ文字はすばらしかったけど(しつこい?)、それ以外にも、いろんな展示があって2時間くらいじっくりゆっくり楽しめました。5時閉館って知らなくて、3時すぎに入ってしまったので最後のインカ文明セクションのミイラ展示あたりは駆け足になっちゃったけど、見ごたえもあったし装飾とか凝っていて、とってもいい展示でした。
いいなー、マチュピチュ行ってみたい。超大変そうやけど、富士山にちゃんと登れたらいけそうな気がする(←ぇ)。行ってみたーい。

2人であれこれ、1つ1つにしっかりツッコミ入れながら展示を見て、そのままメキシコ料理のお店で料理とお酒でゆったりまったり。というかとめどなくしゃべってたけど…(笑)。その後プロントでケーキセットをあてにまたしゃべって…と、たっぷりしゃべりまくった1日でした。トモさん、楽しかったよー!ありがとう!!

まだまだこれから知っていきたい人とゆっくり話す時間も大切やし、こうやって昔から自分の事を知っている人と気兼ねなく話せる時間っていうのも、貴重ですごくありがたいなって思いました。楽しい夕べでした☆
posted by かずみ at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月13日

展示会レビュー:WILLCOM FORUM & EXPO 2007

IT技術の展示会は、なかなか楽しいものが多いです。
もちろん仕事で行くので(しかもバッヂは『説明員』)、遊んでばっかりってワケにもいかないけど、実はけっこう遊んでいる私(←ぇ)。

今日は、WILLCOM FORUM & EXPOに行ってきました。
昨日、今日と2日間の開催だったんやけど、なかなか面白い展示会でした。
特に、新技術の展示(SIM STYLE)はすごかった!

wfe_20070413.jpg

WILLCOMはW-SIMっていう技術(SDカードくらいの大きさのモジュールに、通信機能と個人情報を入れて使う多機能通信モジュールのことらしい)を持ってて、今回はそのプロトタイプ端末を展示してたんやけど、カード1つあれば通信etcが出来ちゃうので、非常時に懐中電灯に挿して緊急通報装置にできたり、ヘッドフォンに挿していつでもどこでも、ヘッドフォンだけあれば音楽がきけちゃったりするの。へぇ〜!!ハイテク!(↓左の写真の、ヘッドフォンに挿さってる白いカードみたいなのがW-SIM。画像クリックで拡大表示☆)

wfe3_20070413.jpg wfe4_20070413.jpg


あと、新端末のプロトタイプの発表もあって、個人的にかなり注目したのがコレ↓
wfe1_20070413.jpg

普段使いは右のちっちゃいサイズで、横のボタンを押すと画面が出てきて左のスタイルになるの。それから、コレも↓

wfe2_20070413.jpg

こちらは、左側が普段使いスタイルで、コンパクトみたいにパカっと開けると右のようなキーボードが使えるっていうモノ。新スタイルって感じです。


新技術とは関係ないけど、個人的にかなりヒットだったのが、9[nine]っていう機種!これ欲しい!!めっちゃ欲しい!!INFOBARユーザーの私にはほんとにビンゴ!って感じでした。INFOBARよりも画面がきれいやし、おしゃれやし、機能だってダンゼン上(INFOBARの発売年月日から考えると、当然やけど)。本気でWILLCOMにキャリア変えようかと思いました。もうちょっとエリアが広がってくれれば嬉しい…。そんでもって、月額最低2900円は高い!私、毎月2500〜3000円くらいしか使わんもん。でも、この2つをクリアしたら、確実にこの9[nine]目当てでキャリア乗り換えると思います。ていうかこの9[nine]、auにも欲しい〜〜!!(←ムリ)

あ、もちろん、ちゃんと仕事もしましたよ。うちの製品の説明しましたよ。一人、ガイコクジンのお客さんがいたので、ちゃんと英語で説明しましたよ(←これくらいしか役に立ってない)。

めっちゃ疲れたけど、楽しい展示会でした。終わりにビールと食べ物とか出てたしね(飲んでないけど…)。
ガンバレWILLCOM!
posted by かずみ at 23:55| Comment(0) | TrackBack(0) | レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月11日

ブックレビュー:"The Shadow of the Wind"

読み終わっちゃいました、Carlos Ruiz Zafonの"The Shadow of the Wind"。世界中で大絶賛され、何ヶ国語にも翻訳された超話題作と言うだけあって、ストーリーのテンポがよくってぐいぐい引き込まれてしまいました。

“本の墓場”で見つけた一冊の本、"The Shadow of the Wind"。運命的なその本との出会いが、少年Danielの日常にミステリアスな影を落とす。
本の作者、Julian Caraxについて調べ始めたDanielは、Julianの著書が片っ端から破壊されていることを知る。
本を奪おうとDanielに近づく謎の男。友人Ferminの行動に目を光らせる怪しい警察官、Fumero。初恋の女性、Claraとの出会いと別れ。親友Tomasとその妹Beaの存在。そして、明らかになるJulianとPenelopeの悲恋。
たくさんの人々を巻き込んで、謎が謎を呼び、思いは交錯する。愛情、憎しみ、友情、裏切り―。

駆け落ちの約束をしたJulianとPenelope。約束の日の朝、Julianは、手を貸してくれた友人Miquelと駅でPenelopeを待つが、彼女は現れない。

"There's still time," Miquel murmured with his eyes fixed on the station entrance.
At five past one, the stationmaster gave the last call for passengers traveling to Paris. The train had already started to slide along the platform when Julian turned around to say good-bye to his friend. Miquel Moliner stood there watching him, his hands sunk in his pokets.
"Write," he said.
"I'll write to you as soon as I get there," answered Julian.
"No. Not to me. Write books. Not letters. Write them for me, for Penelope."
Julian nodded, realizing only then how much he was going to miss his friend.
"And keep your dreams," said Miquel. "You never know when you might need them."
"Always," murmured Julian, but the roar of the train had already stolen his words.

「出発まで、まだ、時間はある」とMiquelが駅の入り口をじっと見つめながら言った。
1時5分。車掌がパリ行きの乗客への最終案内を放送した。JulianがMiquelを振り返ってさよならを言おうとしたときには、電車はすでにプラットホームを離れ始めていた。Miquelは手をポケットに入れたまま、Julianを見つめていた。
「書けよ!」とMiquelが言った。
「向こうに着いたら、すぐに手紙を書くよ」Julianは答えた。
「違うよ、手紙じゃなくてさ、本だよ!本を書けよ!俺と、Penelopeのために!」
Julianはうなずきながら、そのときになってようやく、Miquelとの別れの寂しさを感じていた。
「あきらめるなよ!夢は、持ち続けるものだから!夢が必要になるときが、きっとあるから…」
「いつだって、夢は必要だよ…」そう答えたJulianの言葉は、電車の騒音にかき消されてしまっていた。

("The Shadow of the Wind" p278 訳はmy意訳)

スペイン語の英訳版なので、英語自体それほど難しくなく、すらすら読めます。難しい比喩とかもないし。
内容は正統派ミステリーって感じ。ミステリーファン必読!登場人物が多いのでこんがらがりそうになるけど、伏線もばっちり張られていて、「この人とこの人はここでつながってたんや!」ってコトもあったりします。Julianのたどった数奇な運命と主人公Danielの人生がなんとなくかぶっているところも、不思議な宿命を感じさせます。お気楽ハッピーな話ではないけれど、なぜか惹きつけられてしまう…そんな、たくさんのエッセンスが詰まった1冊でした。

集英社の邦訳版『風の影』スペシャルサイトはコチラ

「続きを読む」をクリックすると、商品詳細が見られます。続きを読む
posted by かずみ at 21:26| Comment(0) | TrackBack(0) | レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする