(国立劇場のサイトからお借りしました)
思えば長い道のりだった…。申し込みをしたのに行けなかった日もあり、観たいと思っていたのに申し込みを忘れたこともあり…。まぁ、たいていの場合自分が悪いんですが、それにしても、ほんとにようやく国立劇場に足を運ぶことができました。
今日の演目は、『妹背山婦女庭訓』第4段。蘇我入鹿討伐に向けて動き出す藤原鎌足サイド、そして、その討伐に関わる2人の女性の存在…。ダイナミックな動き満載の段です。
あらすじ
一幕“道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)”
蘇我入鹿討伐を狙う鎌足の部下、求馬(もとめ)は、お三輪(みわ)と恋仲。ところが、大敵である入鹿の妹、橘姫が求馬に恋心を抱き、接近してくる。ある夜、2人は道すがら出会うが、橘姫は求馬が敵の部下だと知っているので名を明かさず切々と恋心を訴えるだけ。謎の女性に心惹かれた(?)求馬は、走り去る彼女の着物に苧環(おだまき)の赤い糸を付けて後を追う。恋人であるお三輪も、それを見て求馬の着物に苧環の白い糸を付けて追っていく。
二幕“鱶七上使段(ふかしちじょうしのだん)”
一方舞台は入鹿の屋敷。鱶七(ふかしち)という漁師が「鎌足の降伏の印」という酒を、頼まれて持ってきたと入ってくる。その真意を怪しむ入鹿は鱶七を人質にとるが、鱶七は悠々としている。
三幕“姫戻段(ひめもどりのだん)”
橘姫は素性を知られまいと急いで屋敷に戻ってくる。追いかけてきた求馬は、彼女が天敵入鹿の妹だと知って殺そうとするが、彼女のあまりにひたむきな恋心にうたれ、入鹿の持っている“十握(とつか)の御剣”を奪い返してくれれば夫婦になると約束する。
四幕“金殿段(きんでんのだん)”
一方、求馬を追ってきたお三輪は、宵に橘姫と求馬の祝言が挙げられると聞いて激怒。なんとかしようともくろむものの、逆に入鹿の女官たちに恥をかかされてしまう。憤怒と嫉妬で怒り狂うお三輪は、見境なく屋敷に入ろうとしたところを鱶七に刺される。実は鱶七は鎌足の部下で、入鹿討伐のために“疑着(ぎちゃく=嫉妬)の相ある女の生血”が必要だったとお三輪に明かす。お三輪は、愛する人の役に立って死ねるのならと喜びながら死んでいく。
五幕“入鹿誅伐段(いるかちゅうばつのだん)”
橘姫は、兄入鹿から御剣を盗もうとするが、失敗する。そのとき、三輪の生血に浸された笛の音が聞こえ、入鹿は気を失う。御剣はいつしか龍となり、鎌足の袖に飛び込んで元の剣となった。入鹿は三種の神器のひとつである鏡で目がくらんだところを鎌足によって斬首される。
…ていうか、求馬ひどくない??自分に恋心を抱く女性を2人も利用して!!どうなってんだよ!っと、一緒に観に行ったMちゃんと思わず突っこんでしまいました。報われない女心…悲恋です。いったい誰が“悪”なのか…。お三輪があまりにも可愛そうです。
そうそう、お三輪が殺される場面で、鱶七がこんなことを言ってました。
「…(前略)…彼(=入鹿)が父たる蘇我の蝦夷子。齢傾く頃までも一子なきを憂へ、時の博士に占はせ、白き牡鹿の生血を取り、母に与へしその験。健やかなる男子出生。鹿の生血胎内に入るを以て入鹿と名付く。…(後略)…」
鹿の血が入り混じってるから“入鹿”。なかなかうまいこと考えたものです。思わず信じてしまいそうになったよ…。
ちなみに、この鱶七を操っていたのは、私の大好きな桐竹勘十郎さん!!いやぁ、今宵も素敵でした…もぅ、オペラグラス通してじっくり見ちゃったよ。ダンディやわぁ
鱶七は出番も多く、けっこう動きも大きくて見ごたえもあり、たくさん見られて大満足でした。勘十郎さん素敵!
文楽は、いつの間にか人形が人形でなくなって、太夫さんの声と三味線の音と、人形の動きがほんとにひとつに見えてくるのがすごく不思議です。物語に入り込んでしまうと、そこには人形遣いや太夫や三味線はいないんだよね。ただ、ドラマがある。ほんまにすごいなーっと思います。やっぱり好きです、文楽!
それにしても、昔の姫さん方にとっては、恋は命がけでするもんなんですねぇ。いやぁ、激しい恋!お三輪さんなんて、「あなたのお為になることなら、死んでも嬉しい、忝い」と言って死んでいくし、実の兄を裏切って御剣を奪ってきたら夫婦になってやるよ(←何様)と求馬に言われた橘姫なんて、「若し見付けられ殺されたら、これがこの世の顔の見納め。たとへ死んでも夫婦ぢやと、おつしやつて下さりませ」って言って覚悟を決めるのよ。激しい…。
恋は命がけなんですね。
でもやっぱり求馬め、許せん。