今回は『籠釣瓶花街酔醒』を見ました。
(今回も松竹歌舞伎SITEからお借りしてきました)
話は、一人の男(次郎左衛門)がある日、八橋という花魁(おいらん)に一目惚れして、足しげく彼女の元へ通うようになって身請け話までするようになった。
でも実は、その八橋には間夫(現代用語でいうならヒモ)がいて、この男、養ってもらってるくせにとある悪人にそそのかされて「俺の許可もなしに身請け話なんか!」って八橋を責めにくる。間夫っていうのは、遊女の愛人みたいなものなんだけど、お金がないのね。でも、遊女にとってはお金で買われた相手じゃなくて本気で惚れてる相手だから、ヒモでもなんでも、とにかく愛する男なのね。それで八橋も、誤解とはいえ「その客と縁を切らないなら別れるぞ!」って言われて、仕方なく次郎左衛門に愛想尽かし(「あんたがキライなのよ!顔も見たくないわ!」見たいな感じ…)をする。
おりしもその日は、次郎左衛門が同僚やらを引き連れて身請け話をしに来ていたときで、次郎左衛門は顔に泥を塗られてすごすごと帰っていく。
4ヵ月後、何事もなかったかのように再び八橋に会いに来た次郎左衛門。愛想よく酒をすすめて、八橋がその杯を受けた瞬間、「これがお前のこの世で最後の酒だ!」って、豹変して、八橋を斬り捨てる(しかも、その直後に明かりを持ってきたおかみも斬る)。そして、その刀を眺めるところで閉幕…。って感じ。
美しい花魁に惚れて、鼻の下伸ばしてデレデレしていた次郎左衛門が、最後にがらりと声色を変えて殺人鬼となる瞬間は、凄みがあって見事でした。「よくも俺の顔に泥を塗ったな!」と言ってキレてたけど、八橋を斬った刀を見つめて「籠釣瓶(←刀の名前)…よく斬れる…」とつぶやく姿はむしろ狂人。
心から、狂おしいほど惚れていた八橋に、突然愛想をつかされる。しかも、八橋に実は間夫がいたことまで知らされる。失恋なんてもんじゃないですよね。深く深く愛していたからこそ、憎さや恨みも深いものになってしまった。それが次郎左衛門を殺人鬼という狂人に変えてしまった。現代で言うなら、別れ話で逆上して恋人を殺してしまうようなもの。その、盲目的な愛の光と影が、ほんとに見事に演じられていたなぁと思いました。
開演と同時に真っ暗になる客席。にわかに明るくなって、突然現れる吉原(京都の祇園みたいな感じ?遊女の多いところ)の華やかな風景。そこに現れる美しく華麗な花魁道中…と、視覚的にも非常に見ごたえのある、美しい幕開けです。最後は凄惨な殺しの場面なんだけど、斬られた八橋が倒れる様も、なぜか美しい。
見ごたえのある演目でした。